小説

『灯火』桜吹雪(『ヘンゼルとグレーテル』)

ふかふかのベッドに温かくて軽い羽毛布団、マシュマロの様な枕。もちろんこれはお菓子じゃない。
二人を案内するとあっと言う間に眠りについた。
後片付けの後、いつものようにベッドに入ったけれど、何だか高揚していてよく眠れなかった。朝、いつもよりも早く目が覚めて、マフィンを焼いた。昨日の夜眠れないままベッドの中で朝食は何を作ろうとずっと考えていた。マドレーヌにフィナンシェ、ガトーショコラにハムエッグ、ソーセージに目玉焼き。
あの子たちは何が好きなんだろう?
考えながら手を動かしているうちにテーブルの上がいっぱいになった。調子に乗って作りすぎてしまったみたい。食べてくれる人がいるというのがこんなに嬉しいなんて考えたこともなかった。それくらいずっと一人だったから。
ふと窓の外に目を向けた。陽はすっかり昇っている。
あの子たちはまだ眠っているのだろうか。それにしては遅い気がする。
私は客室の様子を見に行くことにした。
数回のノックの後、ドアを開けるとベッドの横で女の子が泣きそうな視線をこちらへ向けた。咄嗟にベッドの上の男の子に目を向けると苦しそうな呼吸をしている。
近付いてみると真っ赤な顔で沢山汗をかいていた。腕には赤い発疹が表れている。
その症状は昔書物で読んだものとよく似ていた。
人から人へとうつる熱病で最悪の場合死に至る。
どうすればいいのだろう。
立ち尽くす私のスカートを小さな手が引っ張った。
泣きそうな顔でこちらを見上げている。
私ははっとした。
この子にうつったら大変だ。
今、この子たちにとって私が唯一頼れる相手なのだ。
しっかりしなくては。
私は男の子を抱き上げると急いで隣の小屋に移した。
お菓子の家を作っている間寝起きしていた仮の家。
だから生活に必要なものは揃っている。
そっとベッドへ寝かしつけると、付いてきていた女の子を小屋から出した。

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