小説

『灯火』桜吹雪(『ヘンゼルとグレーテル』)

板状の飴で作った自信作で、きっちり窓の機能を果たすように微調整を繰り返して漸くぴったりのものが出来た。
両手開きの窓をぴったりと合わせる瞬間やはり人の声が聞こえた気がして、そっと外を覗く。
見える範囲では何も見つからなかったけど、何だか気になって私は玄関へと足を向けた。
チョコレートクッキーで作ったドアを恐る恐る開いてみる。
私は小さく息を呑んだ。
リスみたいに頬を膨らませ、もぐもぐと口を動かしている男の子と目が合った。
男の子は驚いた様に目を見開いて、ごほごほと咳き込んだ。
驚かせてしまったと反省し、でも人と会ったのも久しぶりだったからこういう時どうすればいいのか分からずに狼狽える私を尻目に、男の子の陰からさらに小さな女の子がそっとその背中を擦って上げていた。
暫くの間男の子は咽こんで、女の子は男の子の背中を擦り、私は固まったまま何も出来ないままでいたけど、やがて何とか咳を治めた男の子は涙目で口を開いた。
「★▽✖☺?」
でも私にはその言葉が理解出来なかった。
「えっと、何て言ったの?」
思わず尋ねると男の子は女の子を振り返った。
「◇>*;#?」
女の子は小さく頷いて、二人は何やら私の分からない言葉で会話を続けた。
やがて男の子が困った顔でお腹に両手を当てた。
少し考えてどうやらお腹が空いているらしいと思い当たる。
私はこくこくと頷いて二人を家の中に招き入れた。きょろきょろと周囲を眺めながら入ってくる二人の姿に思わず笑みが零れる。
二人の姿が愛らしかったのはもちろん、この家にお客さまを招くのも初めてだったから。
私は張り切ってご馳走を作った。二人は喜んで沢山食べてくれた。食後にケーキや焼き菓子、プティングを並べるとこれも喜んで食べてくれる。
言葉は分からなかったけど、身振り手振りで気持ちを伝えてくれた。
沢山食べて沢山話した後、二人がうとうとし始めたので私は客室を整えた。

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