「どうだ！ 寝太郎さまが救ってくれたか？ だから俺は言ったんだ！ あいつは大ぼら吹きだ！ 俺の言ったとおりだ！」
「うるせぇ！ だからってなんだ！ 何もできねぇおめぇがいうな！」
直ぐに三助さんが怒鳴りつけました。けれども祈祷師は顔色一つ変えませんでした。
「いいかおまえたち！ これは神さまの呪いだ！ 寝太郎なんぞ大ぼら吹きを有難がるから罰があたったんだ！ そのぶん俺は神さまとようく話し合った！ この危機から救われたくば、俺に詫びをいれるんだ！」
「なにを大ぼら吹きはお前だ！ 退ね！ 退ね！」
「ならばよいだろう！ 寝太郎の馬鹿げた奇跡と共にこの村に沈むがよい！ 俺は一人退散し、豪雨明けのかんかん照りをこの身体で浴びてやるぞ！」
祈祷師は高らかに笑いました。くるり、振り返って、足を踏み出して、
「ちょっと待ってくだせぇ！」
すると、村長が言いました。祈祷師は足を止めて、ゆっくり身体を戻しました。
「悪かった祈祷師さん！ もう、どうすることもできねぇ。ここはもう祈祷師さんにお願いして、もう、そうするしかねぇ！」
村人たちは、うん、うん、口を紡ぎながら頷きました。私も毒虫を噛み潰す思いで頷きました。祈祷師はしゃん、と村人に向かいました。
「二度と俺を狂人呼ばわりするでないぞ！ さあ、神さまより授かった事実を申そう！ かつて寝太郎が水流を変えたことが神さまの怒りを買った。水を引っ張るなどいくらでも方法はあったのに、神聖な川に岩を放り込んだのだからな！ 俺は懸命に努力した。しかし神さまの怒りは静まらぬ。すなわち、この氾濫は逃れられんのだ！」
「なにをいう！ だめなんじゃないか！」
「まていまてい！ ただの一つ、被害を抑える方法があるのだ！」
「早うそれを言え！」
「神さまに、寝太郎を生贄に捧げるのだ！」
「ええっ！」
思わず私は叫んでしまいました。村人たちも口々に反対しました。