小説

『寝太郎、その後』伊藤円(『三年寝太郎』)

 などと叫んで、村の外れで切株に薪を割っていれば、すっ、と隣に腕組み立ち、
「寝太郎を未だ信じてるって顔だね。言語道断、違うに決まっているじゃないか! 偶然だった! さしずめ夢を見たんだ! 今こうやって働いている間にぐうすか寝てるあいつに、村を救おうだなんて立派な考えがあるはずがない! 暫く土をほじくり返していたのだって働いているように見せかけただけだ!」
 などと喚いて、家の中で、ぐつ、ぐつ、芋を煮ていれば、ぬっ、と窓から覗きこんで、
「随分大変そうじゃないか! 寝太郎に頼んでいい方法を教えてもらったらどうだい! あいつなら考えているはずだ! それだけじゃない、この前の鹿だって、この前の嵐だって、この前の雷だって、全部考えてるはずだ! なのにどうして寝太郎さまは救ってくださらないんだろうね! それは全部あいつのほら話だからさ!」
 と、そんな始末。村人にまるで虻のように付きまとって、何とか太郎さんを悪者にしようと血眼になっているそうでした。私が嫁いでからはさらに酷いもので、私を見かけるたびに、のそ、のそ、近寄ってきては、ありとあらゆる罵詈雑言を投げつけてくるのでした。その度私は腹が立って口論しましたが、村人は私の味方で毎度仲裁をして、「わしらはわかっとるよ」と優しい言葉をかけてくれるのでした。でも、一方ではそんな言葉に感化されそうな人も居て、村の仕事を手伝い始めたのは、そんな人たちの疑念を宥めるためでもありました。太郎さんの偉業の実態は解りません。けれども村を救ったのは事実ですし、あんな穏やかな方に悪意などあるわけもなく、責められる所以など一切ないのです。努力が実ったのか村人の疑いは霧散していきましたが、悔しさは治まらず、私はしばしば太郎さんに訴えかけました。けれども太郎はさんはいつもでも薄く微笑むだけで、「言いたいように言わせておけ」とさっさと眠ってしまうのでした。私は何とか話を聞かせようとゆすり起こそうとするのですが、太郎さんの寝顔を見ているとやはり眠気が惹き起こされて、いつだか、こてん、と気を失って、気がつけばちゅん、ちゅん、と雀が鳴いているのでした。慌てて朝餉の支度をして、村仕事に出向き、そして帰ったら寝太郎さんの隣でぐっすり眠って、そんなふうに、村の生活はあっという間に過ぎていって……。
「ユメさん! ユメさん!」
 うつら、うつら、眠気の靄を、鮮明な声に破られました。玄関を覗き込むと五吉さんが居て、
「川がえれぇことなっちまった!」
 青白い顔をして言うのでした。額に、ぷつ、ぷつ、と汗が湧き出して、直ぐにそれが外の豪雨のせいだと気がつきました。ごう、ごう、と飛沫が飛沫を呼んで五吉さんはずぶ濡れで、ただ事ではない、と私は慌てて腰を上げました。

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