集った女たちは私も含めて、まるで蟻んこみたいに寝太郎さんの小さな家に列を成していました。黒々と塗った髪、白々と叩いた頬、皆入念なおめかしを重ねて、付添人にあれやこれやと礼儀所作の指示を受けていました。村人の一人が帳簿を片手に列を整えて、次々と長屋に入っていきました。その時間がいやに短かった。お日様の少しの傾きも待たず二人、三人、と見合いが済み、直ぐに私の順番になりました。その日はめっぽう暑くて、村に到着して直ぐ廻ってきた順番に私は安堵しました。後ろにはやはり長蛇ができていて、私も早く切り上げよう、と妙な気力が湧いたものでした。
閾を跨ぐと居間に、ご老齢を両隣に従えた寝太郎さんが居ました。まるで、想像と違いました。決して大男でない、しゅっ、と痩せた体型、髭の一本もない、きりっ、と精悍な顔つき、寝坊助の片鱗もない、ぱちっ、と開いた双眸。私と目が合うとうっすらと口許に笑みを浮かべて、子供のように愛らしかった。もしや伝説など嫁探しのほらなんじゃないか、とすら疑いました。とはいえ居間に上がるとそんな話をする間もなく、矢継ぎ早に私への質問が飛び交いました。寝太郎さんは一言も喋りませんでしたが、じっ、と私を見詰めていました。その視線は何とも不思議で、気がつけば私は、うと、うと、眠たくなっていました。ふと「ユメさんからの申しはあるか」と聞かれて、何も考えずに「ありません」と答えてしまいました。途端、付添人は慌てふためいて、そんな調子に私もはっ、と目を覚ましました。しかし、
「僕は、ユメさんと結婚するよ」
開口一番、寝太郎さんは言ったのでした。
他の候補や付添人にさんざ悪口を投げつけられましたが、無事に寝太郎さんの元に嫁ぎました。私を選んだことについて寝太郎さんは理由を教えてくれませんでしたが、村人からは「別嬪さんだ」と持て囃されて満更でもありませんでした。寝太郎さんの家には調度品の一つもなかったので、嫁入り道具には卓と薄べりを持参しました。いったいどんな暮らしになるものか、いざ嫁いだとなって私もふと期待して、寝太郎さんのことも本名の太郎と呼ぶようにしました。でも、太郎さんは覆された印象は何処へやら、やっぱり寝太郎でした。三年寝たきり十日にいっぺん小便を、などとはいかず食事や用の時は起きあがって、偉業も広がるにつれて脚色されていたのだな、と実感したものですが、とにかく、働きもせず、思索に耽る様子もなく、私が嫁ぐ寸前までは、また奇跡を起こすと言わんばかりに、鍬を片手に彼方此方働き廻っていたらしいのですがそれもせず、ただ、眠ってばかりでした。私は拍子抜けしましたが、それはそれで居心地が良いのでした。