「……太郎さん。私は、これでも幸せなんです」
気がつけば、私は喋り出していました。
「太郎さんは寝てばかりいました。ご飯と用の時起きるだけで、夫婦らしいことがなかった。でも、太郎さんはいつでも優しかった。私は結婚なんてどうでも良かったのです。でも、太郎さんの隣には居たいと思うようになりました。きっとそんなことは太郎さんと会っていなかったらなかった」
ぽろ、ぽろ、涙が零れていました。
「それだけで嬉しいんです。太郎さんと居ると安心するんです。隣にいると眠たくなるんです。そんな所を愛しているんです。きっと、今なら私は解るんです。太郎さんが私に決めた理由が。私がこうして眠たくなってしまうように、私と居る時の太郎さんは、ほんとうに気持ち良さそうに寝ている。こんな、死ぬ運命の中に居たって……」
ぎゅうっ、と目を瞑って、すると、
「……ばれちゃったかぁ」
ぽつり、太郎さんが呟きました。がばり、身体を起こして見やれば、あの日、初めて会った時みたいにぱっちり目を開けていました。
「お、起きてたんですか?」
「だって騒がしいんだもの」
太郎さんは微笑を浮かべました。私は、やはり、その表情に安心するようでした。
「ユメさん」
太郎さんは上体を起こして私の背中をさすりました。
「大丈夫だよ。あと三十回も息をする内に終わる」
「……太郎さん」
私は太郎さんの胸元に寄り添いました。ぐっ、と太郎さんは強く抱きしめてくれて、ふう、ふう、私は言葉通り息を数えてみました。……七回、八回、と吐いた時、
――どごんっ!
と、これまでと比べ物にならないような大きな音がしました。でも私は呼吸を数えて、十四回、十五回、と吸った時、
――あああああ!