「もし君が会おうとしているその女の子と行き違いになったら、困るだろう」
「確かに困りますわ。狩人さん」
「ここのお祖母さんには孫娘が一人いる。君が会いたいその女の子のことを、お祖母さんが知っているかもしれない」
「そういうこともあるでしょう」
「そういうこともある。だからそのお祖母さんにも言付しておこうと思うんだ。しかしここに住むお祖母さんはご病気だ。そこまで気を回してもらうのはいささか引け目を感じるものだが、お孫さんの話をすれば少しは元気を取り戻してくれる」
「私はその子のご友人の振りをしてみせればいいのね」
「その通り。きっとお祖母さんも若いお嬢さん相手なら、孫娘のことを思い出し、気持ちよくお話してくれるだろう」何だか後ろめたいとも思いましたが、アリスは狩人と一緒にお祖母さんの家に入ってみることにしました。しかしノックをしてみても、まるで返事はありません。変だなと狩人もアリスもつぶやきましたが、もう一度ノックをして返事がないことを確認しました。様子を伺うつもりで、狩人はお祖母さんの容態を気にかける言葉をかけながら、ドアを開きました。
でもそこにはお祖母さんの姿はいませんでした。代わりにむすっと香るのは、あの狼の、獣の臭いでした。血が濁ったような香り、肉の粘りとその重みがお祖母さんのベッドの上にのしかかっていました。毛布はめくれ、その無残にも、がむしゃらに任せてつけられた傷が何よりも狼が生きていないことを示していました。
そう、狼はもう既に死んでいたのです。狩人はアリスの眼を伏せ、床に座っていなさいと言いました。アリスは言うとおりにしなくちゃと最初は眼を伏せていましたが、やはり狼の死骸というのは気になるものです。アリスは指と指で隙間を作り、その穴から狼を覗くことにしました。狩人が狼の体を探っているのが見えています。その体の表面から肉へと手をやり、きっと狼を殺した誰かを探っているのでしょう。狩人は狼の状態を確かめ、幾分か考えあぐねているうちに、また一つドアをノックする音が聞こえてきました。狩人はこの部屋の状況を伝えるべく、その扉の向こうにいる誰かの訪問を受け入れました。
そこにいたのは赤ずきんとついさっき赤ずきんと知り合ったというハートのジャックでした。何でも赤ずきんがお花を摘んでいると、ハートのジャックがしきりに現れ、こんなお話を始めたのでした。
「そこの赤いずきんを被ったお嬢さん。少しお話をしませんか」
「ええ。なんでしょう」と振り向いて、お花を摘む手を止めました。それから名前を考えました。この方は誰なのだろうと。