「こんにちは、狼さん」
「いやいや、さっきは良かったよ」
「一体何が良かったんですか?」わたしは疑問に聞いてみる。
「さっき道に迷ったウサギを食べたんだ。久々形のいい肉でね、こいつは普段のウサギとはちょいと違うんだよ」
「一体どこが違うんですか?」わたしは疑問に聞いてみる。
「よくぞ聞いてくれたね、赤ずきんちゃん。私が口にしたウサギの肉、これは見事に人みたく、形は似ているが似ていない、でも君もよく見るお人形みたく手足が上手いこと分かれて、人みたいな格好をしたウサギだったんだ。なぜかわからないが大きな懐中時計を持っていた。とにかく私はそいつと出くわして、そいつがぶつかって眼を回しているうちに、私ががぶりと食べてやったのさ。時計は捨てちまったけど、今思えばお宝みたいなもんだろう。拾っておけばよかったなぁ」
「そうなんですか、狼さん」わたしは疑問に聞いてみる。
「そうだよ、そうだよ。もうとっくにそのウサギを胃袋の中、消化している最中さ。私はこれでひとまず満足した。でも何かが足りないみたいだ」
「それはなんですか、狼さん」わたしは疑問に聞いてみる。
「それはわからないよ。赤ずきんちゃん。ちょっと私も考えてみるよ。赤ずきんちゃんも気をつけてね」そう言付けると、狼さんは森の向こうへ消えて行く。方角から見れば、お祖母さんの家とは違うみたい。
わたしはちょっと寄り道をする。お母さんの言葉では道草をしちゃいけないってあった。でもちょっとね、お祖母さんにお花を摘んであげていくぐらいいいじゃない。ここに来たことないけれど、道を進んでいった先には小鳥がいい声で歌ってそれを聞きながら、お花を摘んでいくとここはもう素晴らしい世界みたいに見えてくる。どの木も、どの木にも、お日様の光を浴びて清々しくいっぱいお花が咲いているのが目に入ってくるの。
元気のいいお花。きれいなお花。どれも背伸びして空に花びらを向けている。まだ朝は早いからお日様の方を向いている。まだ曇りなんて見えないし、夜の匂いもしないもの。だからまだ大丈夫。お祖母さんにこのお花を持っていけばきっと喜んでくれる。時間だってまだ間に合う。そう思って、わたしはまた横道へ走っていく。森の中にはまだまだ色んな花があるんだもの、足りないわ。そしてまた森の奥へ、奥へとわたしは誘われるようにその道へ行くことにした。