人の数だけ鬼がいるということか。今まで見えていなかったものが見える不思議を季雄は思った。俺の眼には鬼が映る。他の誰もが見えぬはずの鬼の姿を目の当たりにして、身が竦んだ。意気を失い、季雄は朱雀大路を北に向かって進んだ。
ふと気になって周囲を見回すが、季雄自身の鬼がいないことに気が付いた。
するとあの朱雀門の鬼が俺の化身ということになるのか。それよりもひょっとすると、俺自身が鬼となってしまったのではないか。
季雄は朱雀門の前で立ち止まると、楼上を見上げた。一陣の風が足下を過ぎて、指貫の襞を揺らした。
季雄は意を決したようにひと息呑み込むと、楼上を目指して階段を上った。
季雄は紀長谷雄の末裔ということである。