『温泉街』 作者名不詳
迷い込んで辿り着いた街には、温泉と、硫黄の匂いだけがあります
私はきちんと、嫌だ、と言いました
体中に塗られたゴシップと、三本の煙草を片手に歩くと
皆がこっちを見ます、好奇と狂気の混じった半端な目です
「温泉に浸かりたいのですが」
なぜかどこかから自分の声が出て、私は声の思った通り、温泉に入ろうとゴシップを脱ぐ
それを隣にいた女に手渡し、
「ちょっとだけ、預かっていて貰えますか、温泉に入るので」
女は受け取ると、
「あなたの名前を教えてくださいますか、お返しするときに、きっと困るでしょうから」
女の声は、四拍子のリズムで、耳に心地よかった
「ええもちろん、私の名前は…」
「…あなたの名前は?」
長い沈黙。
「ああそうだ、吉住です、大吉の吉に、住むと書いて」
誰かの笑う声が聞こえた、ははは、ははは、ははは