…そのときだった。
足元で、襖がすらりと開く音がしたのは…。
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「こら、ゆーくん!勝手に襖を開けないの!」
凍り付く空気の中で、髪を金色に染めた明美が二歳になる息子を抱き上げた。
ひ孫の裕也は、その意味をわかっているのかいないのか、母親の腕の中で嬉しそうな嬌声を上げた。
それを見て、東京から車を飛ばしてきた正敏はやれやれと首をふった。
「おいおい、ここって爺さんのいう『開かずの座敷』ってやつだぞ。絶対に見ちゃいけないって家族みんながしかられていた場所なんだが…。」
それを聞くと、明美は驚いた顔をした。
「え?なにそれ。ゆーくんが開けちゃったじゃない。どうする?どうする?」
それに対して正敏は「ま、しょうがないんじゃないの。」という風に肩をすくめてみせた。
「どうせ、いつかは開くものさ、今の俺たちに言わせれば、開いちゃったものはしかたがないって気持ちだけどな。な、みんなもそう思うだろ?」
正敏はそう言うと、同意も無しに中を見ようと身を乗り出した。
そうしてそのまま、襖の向こうを見て固まった。
それは、明美も同じであった。
家中の誰もが…その襖の向こうを見つめていた。
誰も、もう何も言わなかった。
家中が静まり返っていた。