小説

『第十一夜』たぼく(『夢十夜』夏目漱石)

 こうして、もともと吾輩が持っていた時間は、輩にかすめ取られていくことになった。待っていたのは何かに急かされながら、歯車の一つの歯にでもなったような“無駄のない”人生だった。振り返れば何もない空っぽの人生をいつかそこから抜け出したいと願いながらのたうちまわる、そんな人生。醒めないままいつまでも続く悪夢のような日々。無駄こそ人生。命より大切な時間を売り渡して、奴隷に成り下がる程、愚かなことはないのだと、吾輩が悟ったのは既に死の床についた時のことだった。

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