小説

『尾を持つ娘』化野生姜(『赤い蝋燭と人魚』)

 男がろうそく屋の娘の話を聞いたのは、二月ほど前のことであった。
 「神社に通っていた身よりの無い夫婦の元に、魚の尾を持った子供が捨てられていてな。…それが成長して娘になって…今じゃあ、その娘が絵を描いたろうそくが海難よけとしてずいぶんと評判になっているそうだ。」

 一本杉の前で仲間内の話し合いが行われていたとき、男は煙管をふかしながら、それを何となく聞いていた。南の空には北斗七星がまたたいており、そこにときおり赤い光が混じる。

 男は顔をそちらに向けると、たき火にあたる相手に聞いた。
「その人魚は、どこで見つかる?金づるになりそうな話なのか?」
 すると、相手は少し黙ってから、楽しそうに話を続けた。
「…ああ、なんでも最近はそこの老夫婦もずいぶんと欲深になったらしくてな。ろうそく屋そっちのけで、値段も分からんような高いものをたくさん買い込んでいるらしい。このままいけば、金次第で娘だって手放すんじゃあないかって噂だぜ。」
 男は一服吸ってから、相手に思案げな顔をして見せた。
「ふーん…じゃあ、見せ物なんてどうだろうか?ろうそくに絵を描くのだろう?適当な檻にでも放り込んでおいて、きれいなおべべでも着せてさ、見物料と一緒にろうそくの代金をとれば十二分にもとが取れる。」
 すると、相手は楽しそうにふふんと鼻を鳴らした。
 いつの間にやら、近くにいた仲間はめいめいに帰ったらしい。
 その場には男とたき火にあたり件の話をする相手しかいなくなっていた。
 相手は、浅黒い肌をひきつらせるようにして微笑むと、嬉しそうに言葉を続けた。
「もの好きなこった。…娘の姿を見た奴は老夫婦以外いないって話なのに…まあいい、だったらこっちも明日には馬と檻を用意しておくさ。ちょうど、なじみの問屋で飼っていたあざらしとかいう北海の生き物が病気で死んじまってね、檻の始末に困っているそうだ。こういうのも、巡り合わせというものなのかもしれん。都合のいい話さ。」

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