小説

『特異体質』小野塚一成(『ピノキオ』)

 仕事は問題ない。お客様に投げかける「お似合いですよ」の台詞はたとえ嘘だとしても、相手の気分を良くさせるのであれば、嘘も方便、悪いことではないはずだ、という認識が私の中にはしっかりと根を下ろしているので、良心の呵責に悩まされるされるということはない。だから先ほども述べたように、この体質にとってショップ店員という職は天職と言っても差し支えない。
 そうではなく、困っているのはプライベートなのだ。月並み過ぎて恥ずかしいのだが、恋愛において非常に頭を悩ませているのだ。
 なぜかというと本音を並べることに抵抗がある私は、どうしてもあと一歩のところで気持ちを伝えることができず、本命の男を逃してしまうのだ。もちろん今まで付き合った男は何人かはいる。だがその男達は、嘘を吐いてもロクに罪悪感も覚えず付き合えたような人達だし、振り返ってみたら、おそらくそいつらも上辺だけの遊び感覚、ちょっとしたつまみ食い程度の交際だったような気がする。
 このままだと一生独り身で過ごさねばならないかもしれない。それはできればご免こうむりたい将来だ。だから今度は恐れずに本当の気持ちをぶつけたい。なんならこの忌々しい鼻の秘密も打ち明けてしまいたい。そしてそんな訳の分からない事実さえも受け入れてくれる人に出会いたい。叶わぬ夢かも知れぬけど。
 そんなことを考えている時、タイミングよく飲み会、というかちょっとした合コンのお誘いを受けた。同僚のレイちゃんが男友達と3対3の飲み会を開きたいから、ということで声がかかったのだ。レイちゃんいわく男性陣のレベルは期待して良いらしい。
 そしていよいよ合コン当日。もちろん気合を入れていく。微妙かつ絶妙に、不自然と感じられぬ程度に鼻を高くしていく(今回は鏡に映る自分に向かって「ビビッてちゃダメ、絶対いい人を見つけるのよ」とか「大丈夫大丈夫、私ならうまくいく」等、ポジティブなことだけを言い、下卑たことは言わないようにした。なんとなく。)
 予約した夜の7時少し前に女性陣は3人揃ってお店に到着。全席個室が売りの小洒落た居酒屋。こちらのメンバーはレイちゃん、私、そして後輩のユキ。ユキは気の利く良い子だ。だが見た目は若干レイちゃんと私よりマニア受けするタイプかもしれない。要するに引き立て役だ。しかしそこは分かっている優秀な後輩。「今回は全力で先輩方をサポートします」と心強い発言をしてくれた。ありがとうユキ。今度甘いものおごるからね。

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