「なんで、なんでそんなこと」
「二人まとめて死んでくれたら、すっきりするでしょう?」
しなだれかかる沙希を、祐二は突き飛ばし、部屋を出た。
深夜二時を回っていた。新大久保の裏路地にある青木事務所の近くで、修一はバイクを留めた。四階立ての雑居ビルを見上げると、灯りは消えていた。真理子からもらった見取り図によると、青木の金庫があるのは、西側の角部屋だ。金庫の暗証番号も書かれている。あの女、どうやってこんな情報を仕入れたのか。修一の心に、また疑念がよぎる。胸ポケットで携帯電話が振動して、ひやりとするが無視した。
電話をしたのは、祐二だった。
──兄貴、出てくれ、罠なんだ。
新宿御苑から新大久保に向かうタクシーの中、祈るような気持ちで、祐二は電話をかけ続けたが、修一は応答しなかった。
修一はバイクを置いて、雑居ビルの裏手に回った。外階段から入る非常口の鍵は、最近開けっ放しになっていると、真理子のメモに書いてあった。外階段の下に行くと人影があり、修一はさっと身を隠した。人影が外階段を上がって行く。非常灯に照らされたその顔を見て、修一は驚く。
──藤島のじじい、なんでここに?
はめられた。修一がそう気づいた時には、四、五人の男に囲まれていた。階段の上から派手な足音でかけ降りてきた男が、鉄パイプで藤島の頭をフルスイングで殴りつけた。藤島の首は変なふうにねじれ、階段から落ちて、動かなくなった。鉄パイプやナイフを持った男達が、修一を囲い混む。
「兄さん」
そう叫ぶ声が聞こえたのは、その時だった。虚を突かれた男達は、声のする方に振り返り、修一はその隙に逃げ出し、バイクに向かって走った。
あれは祐二の声だった。そう思って修一が振り向くと、青木事務所の男達が、一人の男を取り囲み、痛めつけているのが見えた。
──なんであいつがいるんだ。
修一はバイクのエンジンをかけ、走り出す。沙希が俺をはめたのを、祐二が知っていた。やはり、沙希は祐二とできていたのか。だが、なぜ、あいつがここに来た?
遠のくバイクの音を聞きながら、祐二は思った。
──兄貴、逃げられたかな。