小説

『ドアの声』あおきゆか(『塀についたドア』H・G・ウエルズ)

 うなだれる男に、刑事は一冊のノートブックを手渡した。
「仕事の備品ですか」
「いえ、いまどきパソコンですからノートなんて使いませんよ。や、これは」
 男の手から、ノートブックがすべり落ちた。開いたページには黒い虫のようなものがびっしり並んでつぶれているように見えた。
「なんだ、こりゃあ」
 それは虫ではなかった。
「何か書いてあるみたいですがまったく読めませんね」
 ノートには、小さな文字が隅までびっしりと書きつぶされていた。

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