小説

『木漏れ日の中で息をした』水無月霧乃(民話『送り狼』)

 木洩れ日の中で、眠っていた。するとどこからか、元気な子供の声が聞こえてきた。子ギツネは本能的に身を隠し、その場を足早に去る。そして着いた先には、狼の子供を抱いて眠る少年を見つけた。すうすう、と小さな鼻息をたてて、安らかな表情で少年は眠っている。そして狼の子供は僅かに意識があるらしく、子ギツネを見る。キツネは同じ動物として、その狼の子供がもう長くないことを悟った。可哀想に、と子ギツネは思わなかった。狼の子供は、ここがどこだとか、自分は狼で、自身を抱いている生き物が人間で、自分がもうすぐ死ぬことなんてすべてを忘れて、少年の胸の中で安らかに眠ろうとしていたのだから。
 その異様な光景を、子ギツネはすぐに忘れるだろう。あの木洩れ日は、非現実的なものでありながら、そこにいるもの達は、ありきたりで平凡な、ただの昼下がりを過ごしていただけだったのだから。他人の日常を見たところで、何の感傷だって湧かないのだから。
 木洩れ日が優しく二匹の獣と少年を照らしている。狼は少年に抱かれながら、ゆっくりと深い眠りに落ちた。

 
   ありがとう
  おまえの おかげで やすらかに ねむれたよ
  わたしは おまえが しあわせにいきていけるように
  おまえが ねむるそのときまで
  ずっとまもっていこうとおもう

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