「それじゃ、失礼しまーす」
にこり、少年は笑った――。
……しかし、風景は一向に変わらなかった。あれ? と困惑した表情の少年を見ながら、橋爪はアンチドリームシーカーを飲んだことを想起した。本当に効能があるのか。嬉しくなって、
「むだむだ!」
と言って少年を指差した。
「アンチドリームシーカー飲んだからね。どんなに頑張っても奪えやしないよ」
「この、卑怯者め」
少年はきっ、と橋爪を睨みつけた。きりっ、とつり上がった目つき、ぎゅっ、と握った両拳。久留米の話と懐かしいような顔が鮮明に浮かび上がって、
「君は、やっぱり、鈴木くんなのか」
橋爪は語りかけた。すると少年はきょとん、とした表情をして、
「そ、そうだよ」
しかし、認めるのだった。泳ぐ視線や、捻った口や、それらの仕草はあまりにわざとらしく、橋爪は少年が嘘をついているのだと直感した。とはいえ、イメージ上の少年がどうして嘘をつくのか。鈴木くんは悪たれだったが嘘吐きではなかった、はずだ。ならば他にイメージが? 考えても解らず、橋爪は少年に近寄っていった。この際、夢を盗まれないならば、泥棒=少年という自らのイメージの正体を暴いてやろうと思った。
「おいこっち来んな」
後ずさりしながら少年は言った。
「教えてくれ。君は俺の何なんだ。どうして泥棒が子供なんだ」
「来るなって。夢を台無しにするぞ」
「やれるならやってみろ。どうして正体を隠すんだ。君のイメージはどこから来たんだ」
「おれに触るな!」
叫び、少年はだっ、と駆け出した。咄嗟に手を伸ばしたが、するっ、と掴み損ねてしまった。慌てて赤いおうちに向かう少年を追いかけ、閉まりかけた門を蹴り飛ばして驚いた。辺りは雀の住まう小奇麗な部屋ではなく、木々の生い茂る長閑な森の中だった。それは紛う方無く昨晩の夢の名残で、橋爪はアンチドリームシーカーの未知なる効能にふと感心した。しかし少年は土を捲りながら走り続けていて、
「待て!」