橋爪はまた確かめるように呟いて、そしてまた吹き出してしまった。ついに自分にもドリドリの副作用が出てしまった。何より、自分の夢泥棒が『少年』の姿をしていたことが、おかしくて堪らなかった。橋爪は瓶をテーブルに放ってベッドを降りた。二度寝のために早くセットした目覚まし、いつもならもう一眠りするのだが、三十分後の目覚ましをオフにして出支度に取りかかった。早く、誰かに教えたかった。
「……あれは、昨晩のことだった」
出社するなり橋爪は、予想通り早出していた同僚の久留米に言った。久留米は困惑に言葉も返せない様子だったが、橋爪は構わず続けた。
「風呂を上がった俺は冷蔵庫から一本、ドリドリを取り出した。ドリドリ2の方だ。わくわくしながら付属の冊子で頭に物語を叩きこみ、ドリドリを飲んで枕に頭を埋めた。さあ、夢の中だ。牡鹿となった俺は牝鹿のハーレムを楽しんだ。しかし、あるシーンで異変を得た。少年が現れたんだ。その話に少年は登場しないのにだ。少年は饒舌に喋り出した。そして最後に一言、『それじゃ、失礼しまーす』。そして俺は朝を迎えた。ベッドサイドには、何の変哲もないドリドリの空き瓶があった」
いっぺんに言って橋爪は、どすん、と久留米の隣の椅子に腰かけた。その頃には久留米の表情も柔らかくなっていて、
「……ついに、夢泥棒?」
嬉しそうに言った。そして橋爪もまた、
「まさか本当に遭遇するとは思わんかった」
嬉々として言った。
「橋爪もついにドリドリ中毒の仲間入りか。っていうか何だよ鹿って」
「昔話だよ。で、久留米の時はどんなだったっけ。夢泥棒」
「俺はもう、いかにもな唐草模様の風呂敷持った大男。中村ちゃんは黒服の黒人だったかな。で、部長は確か中年のおばさん」
「なんで俺の夢泥棒は子供なんだろか」
「知らんわ。部長みたいに寝る前、万引きGメンとかのテレビでも見ちゃったんじゃないか。自分の胸に聞け。泥棒イコール子供のイメージを作りだした何か、とは一体?」
久留米の問いに、橋爪は腕組み考えてみた。すると案外、簡単に過る物があった。