天帝は窓の外に広がる雲海の隙間から眼下に広がる日本を見下ろして言った。
「長けりゃいいってもんじゃないでしょう。あの辺は田舎ですから住んでる人間は少ないですよ」
「じゃあ関東平野の方がいいってこと?」
天帝は眼下の東京湾辺りを指でくるくるとなぞりながら天子に問いかけた。
「あの辺だと逆に人が多すぎて川汚れてますから。そんなとこ流れてる桃なんて誰も拾わないでしょ」
「ええ?じゃあどこならいいのよー」
「そうですねぇ」
天子は書棚の地理目録から日本の情報を探し、やがて一つの結論にたどり着いた。
「こことかどうです?」
天子が日本地図を天帝に見せながら言った。
「え?備前?超田舎じゃん」
「田舎じゃないでしょ。私たちからしたら出雲が成田空港みたいなもんなんだから、備前は首都圏でしょ」
「成田空港って何?」
「例えです。気にしないでください。この辺りの人たちは桃好きですから。生産量も多いので、川に流れてても不自然じゃないですし」
「わかった。じゃあそこにする」
天帝は天子の進言に納得し、雲の間から備前の位置を確認する。
「ちなみに天帝。流す仙桃は一つですか」
天子は天帝に聞いた。天帝は「うーん」と考えたがすぐに結論を出した。
「そうだね。とりあえず一個かな。まとめてたくさん流してさ、誰も拾ってくれない仙桃があったら、また鬼が増えちゃうかもしれないもんね」
「確かに。ですが、鬼の方もまた天界の者。増して無法地帯で鍛え上げられた猛者たちですぞ。たった一人で鬼退治に行かせるというのは無謀ではないでしょうか」
「やっぱそうだよねー。一人で行ってもボッコボコにされちゃうだけだよねぇ。下界の方で何人か家来つけられない?」
「そうですねぇ……」
天子は人材目録で人間界の名簿を調べていくが、すぐに結論を出した。