小説

『モモノミクス』梅屋啓(『桃太郎』『西遊記』)

「百年経っても?」
「天界の百年なんて下界の一年みたいなもんでしょ。そんな簡単に人手不足は解消されませんよ」
「そっか……」
 天帝は困った顔でしばらく考え込んだ後、何かを閃いたかのように大きく目を見開いて言った。
「悟空行かせればいいじゃん!」
「無理です」
 天子が即答でぶった切る。
「え!なんで?」
 天帝は自分の名案が一瞬で否定されたことに動揺を隠せなかった。イスから立ち上がり、天子の方へ身を乗り出した。天子がそこへ別の書類の束をばさりと投げてくる。表紙には『西遊記・企画書』と記されていた。
「何これ」
 天帝はぱらぱらと企画書をめくっていくが肝心の中身には全く興味を示さなかった。
「中国大陸の経済活性施策の一つです。悟空には、とある著名な法師と天竺へ経典を取りに行く旅に出てもらうつもりです」
「何それ……超面白そうじゃん」
「でしょう?これは中国大陸で永遠に語り継がれる壮大な物語になります。そしてこの旅は、書物として出版され、劇として演じられ、中国に多大な経済効果をもたらすのです。まさに……メディアミックス!」
 天子は自信満々で部屋の中をくるくると回りながら嬉々として説明した。
「めでぃあみ……何それ?」
「悟空には仙桃を下界に落としてしまった罰として行ってこいと、既に伝えてありますので」
「うっそ!何それ、ずるくなーい?」
「というわけでさっさとハンコ押してください天帝」
 渋々デスクの引き出しを開けて印鑑を取り出し、企画書に押そうとしたところで天帝はまたも目を見開きその手を止めた。
「これだ……」
「どうしたんですか?天帝」
「これだよ!これだよ!これと同じこと、日本でもやればいいじゃない!」
「これって、この企画書のことですか?」

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