小説

『モモノミクス』梅屋啓(『桃太郎』『西遊記』)

「えー?何かやったっけ?」
「とぼけでも無駄ですよ」
「いや!だって!実際やったの私じゃないじゃーん。悟空じゃーん」
「そうです。孫悟空です。あなたが連れてきたんでしょう」
「いやだってさぁ。あいつ馬の飼育係任されてたじゃん。最初は喜んでやってたわけ。そしたらさぁ、どこの誰だか知らないけど、すげえ身分が下のやつがやる仕事だってバラしちゃって。したらさぁ、悟空超怒って!あいつめちゃくちゃ強いの。知ってる?」
「知ってますよ。下界にいたんじゃ管理できないから天界に連れてきたんでしょ」
「でしょ?あいつ変な伸びる棒みたいの持ってっから。あれですんげぇ遠くから私のスネ小突いてきて。全然仕事に集中できないから、馬の飼育係辞めて仙桃の管理に回したの。で、これからも頑張ってほしいなってことで忘年会に入れてあげたんじゃん」
 天帝はまるで悪気のなさそうに弁解した。
「そこまではいいんですよ。問題は忘年会のときでしょう。天帝、悟空に何やらせました?」
「何って……別に」
 天帝は天子の眼差しから目をそらした。
「別に大丈夫ですよ。証拠写真ありますから」
 天子は腰に携えた袋の中をごそごそと探った。天帝は慌ててそれを制止する。
「いやいやいやいや。ちょっと待って。わかった、わかりました。私言いました。悟空に天女をナンパさせました」
「わかっていればいいんです」
 天子は袋の中から手を戻し、再び天帝に向き直って、ずいと顔を近づけた。
「で。なんでしたっけ。あの時悟空にやらせたの」
「……壁ドン?」
 天帝は少しだけ考えたふりをして天子と目を合わせずにぼそりと呟いた。
「何ですか壁ドンて。何やらせてんですか」
「おまえ壁ドン馬鹿にしてんの?絶対流行るからね!多分私の見立てだと二千年後くらいに流行るからね!」

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