アジア全土を管轄する天帝は、東アジアの地区長を務める天子とデスクを挟んで睨み合いを続けていた。上下関係で言えば明らかに天帝の方が立場が上なわけだが、今追いつめられているのは上司である天帝であった。
「どうするんですか。天帝」
東アジア地区長の天子が左手に携えた書類の束を、右手の指でコツコツと叩きながら天帝を問い詰めた。
「ね……どうしよっか」
下唇を噛みしめながら天帝は困り顔で天子の視線から目をそらした。
「もう百年ですよ。天帝」
「うっそ。百年?三桁行っちゃってる?」
「行っちゃってますよ」
天子は書類の束をぺらぺらと捲りながらも渋い表情を崩さない。
「とりあえずさ。今いっちばんヤバい問題って何?」
恐る恐る天子の顔を伺いながら天帝は聞いた。天子は書類の束から一枚の紙をデスクに放り出すと天帝の方へ向けて滑らせた。書面には右肩下がりの折れ線グラフが記されていた。
「日本のGDPですよ!百年連続減少傾向!どうするんですか!」
「三桁行っちゃったかー!」
天帝は額に手を当ててオーバーにリアクションしてみせた。
「行っちゃったかー、じゃないですよ!わかってますよね?なんでこんなことになってるのか!」
天子は音を立ててデスクの端を叩きながら天帝を問い詰める。
「やっぱり私のせい?」
「どう考えてもあんたでしょ。他に何か原因があるとでも?」
「……少子高齢化?」
「それもありますけど!そうなった根本的な原因はあなたでしょ!」
「本当に?おまえ言ってるのアレでしょ?百年前の、忘年会のときのアレでしょ?」
天帝は天子を指さしながら困り顔で言った。
「そうですよ。あの忘年会のとき、何やったか覚えてますよね?」