スーホの愛馬が首を巡らせて低く嘶いた。見守るような優しい視線を少年王にくれてやるのに、スーホは苛立つ。
「そうですか、何処からいらしたにせよ、少なくとも一昼夜はかかるはずですが。居眠りしながら馬を駆けさせるなんて、さすが見事な技量をお持ちです」
スーホの揶揄に、少年王の白い頬がかっと赤く染まった。そのまま怒鳴りつけてくるかと思いきや、ぐっと唇を噛み、静かに吐き捨てた。
「笑えばよかろう」
薄い刃で深く切りつけるような声色に、スーホは息を呑む。
「笑えばよかろう。当代の王は馬にも乗れぬ傀儡のうつけだと。皆そうして影で笑っておることくらい、余は百も承知だ」
相手を射殺しそうな険しい表情を浮かべながら、その両手はかすかに震えている。
「そなたにはわかるまいよ。あんなに軽々と馬を繰るそなたには決してわかるまい。王の血筋というだけで担ぎ出され、無理やり鞍に押し上げられてへつらわれ、影で笑われ見下され、余が、どれほど情けないか、惨めか、余は」
「やめてくれ!」
スーホは――それを知っている。
どうして出来ないんだ?簡単なことだろう?困惑と失笑。残酷な励ましと気遣い。
好きで出来ないわけじゃないのに、自分にとってはこんなにも難しいのに、どうして無責任にそんな事が言えるんだ。悔しさと惨めさが言葉にならず、一人で立ち尽くす。
それは、スーホ自身の姿だ。
スーホはぎゅっと体を縮こまらせ、拳を両耳に押し付ける――その刹那、突然背中の支えを失って後ろにひっくり返った。
何食わぬ顔で立ち上がったツァスは、足を馴らすように二三度足踏みをして、それからスーホの頬をぺろりと舐めた。続いて、ぽかんと口を開けた少年王の痩せた頬にもキスを落とすと、軽やかな足取りで歩き出した。