小説

『夜と駆ける』木江恭(『スーホの白い馬』)

 王の存命を知った襲撃者の一派は不利を悟り、遠く西へ逃げたらしい。しばらくは息を潜めることだろう。しかし何せ当代の王はあまりに年若く、おまけにあの体たらくでは、このような謀略は今後も続くに違いない――人々の口に上る噂を聞きながら、スーホは首から下げた翡翠を握りしめた。
大丈夫、必ず会える。会いに行く。その時こそ、話をしよう。
 星の降るような高い夜空、月光に白々と浮かび上がった美しい肢体、熱く滾った血潮、跳ね回るステップ、汗を冷やす夜露、瞼を灼いた眩しい朝日、金色の道。
 あの甘やかに心躍った夜を。深い闇を蹴散らした朝の景色を。
 僕たちだけが知るあの景色を、語ろう。
 固く誓って、スーホは馬の横腹を力強く蹴った。

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