放課後、帰り支度をしていた時にそれは起こった。ふざけ合う男子が、机に置いた日夜子のランドセルにぶつかったのだ。バサラッという派手な音を立て、ランドセルの中身を床にぶちまけた。前の席の林田智香が、気をつかって教科書やノートを拾ってやっている。
「榊さん。これ、なに?」
バターキャンディの缶から、白いくずのようなものが散らばっているのが見えた。日夜子は下くちびるを噛み、それを拾い集めている。林田は、急にのけぞって口元をおおった。
「それ…骨だよね?」
教室にいたクラスメイトたちが、一瞬静まりかえった。その直後、ホラー映画顔負けの悲鳴を上げ、女子たちは全員廊下に飛びだした。残った男子も教室のすみにかたまり、黙々と拾いものをする日夜子を幽霊みたいに凝視している。
オレは小さな白いかけらを取り、日夜子に渡した。彼女の頬には、透きとおった涙のすじができていた。みんなが息をひそめて見つめる中、二人で一粒も残さないように拾った。
「もうガマンできない」と鼻息を荒くしたのは、充希だった。死んだママはお墓がなくてかわいそうなの、と日夜子はこぼしていた。大人には、榊家の墓がどこにあるかわからず、どうしようもないと言われたらしい。それなら千石の墓に入れてくれてもいいじゃないか、というのが充希の言い分だった。母親の骨をお守りにするほど、彼女は窮している。使命感にかられたオレたちは、おばあさんに直談判するために、竹林の上の屋敷を目ざした。
「春太郎のともだち?」
大きな石垣の門の前で怖じ気づいていたオレたちの背後に、紺のブレザーを着た中学生が立っていた。日夜子の同級生だと言うと、今日はレッスンでいないとふきげんそうに言われた。いや、そうじゃなくて…と充希が食い下がる。真剣なのだ。オレら二人とも。