小説

『あの子は月にかえらない』池上幸希(『竹取物語』)

「おばあさんに、話があってきたんです」
 中学生がぴくりと眉を上げた。話をしようと言われ、竹林の脇の細いけもの道を通り、古びた神社について行った。でこぼこの石段に座り、日夜子の家でのひどい仕打ちを聞いた。
「おれも、水ぎわで食い止めるのが精いっぱいなんだ…」
 両腕を抱いてうなだれる達彦を見て、オレはふつふつと全身に鳥肌が立つのを感じていた。

 阿辺 春太郎の月

「みんなで集まって、なにやってるの?」
 髪をおろした日夜子が、ぼくの布団の横にごろんと寝そべった。夜、部屋に忍びこんでくるのは久しぶりだ。二階にはおばさんと達、ぼくの部屋があり、日夜子は窓もない物置きみたいな場所を与えられている。当然エアコンもないので、寒さに耐えかねる冬は、こっそりぼくの部屋で眠ることが多かった。
「達っちゃんの、れんあい相談」
「うそっ」
 タオルケットを頭にかぶり屈託なく笑う日夜子は、その相手が自分だと言われたらどんな顔をするだろう。たぶん今の状況は、集まっているメンバー全員からうらやましがられるはずだ。達彦、統、充希、それに玲央は、ぼくが呼んだ。夏休みに入って、ぼくらはひんぱんに達の部屋に集合している。日夜子には教えない方がいいと言ったのは統だ。
 男物のTシャツと短パンを着た日夜子が寝返りをうつたび、かすかにはちみつレモンみたいな匂いがただよう。運動会のお弁当で、彼女のきれいなママが作っていたのと同じ匂いだ。ぼくらはどんな手をつかってでも、このたからものを守ると誓ったんだ。
 

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