小説

『あの子は月にかえらない』池上幸希(『竹取物語』)

「ねえ、達ちゃんとあたしって、親戚?」
「…きょうだい、でしょ。一応」
 うす闇の中でおれを見つめる日夜子の瞳は、ふしぎな色をおびていた。
「あたしのママは、パパはバイクの事故で死んだって言ってたよ」
 ざあっと竹林がざわめいた。耳の奥がキンとする。本当に、本当に彼女の言う通りなら…。

 冬が過ぎたころ、母さんに「二人で町に引っこそうか」と言われたけど、おれは絶対いやだと断った。だって、日夜子と同じ家で過ごす時間が、なにより好きだったから。

 大友 玲央の月

 榊日夜子は、今までボクが見たどんな女の子よりきれいだった。初めて事務所で会った時、彼女は前髪を切っているところだった。顔についた髪の毛を無造作にはらおうとして、メイクがとれると注意されていた。鏡ごしにボクと目が合うと、こっそり舌を出してみせた。最初はうまく笑顔がつくれずに、カメラマンさんを困らせていた。逆にすました表情がうける場合もあるらしく、大人っぽい日夜子はティーン向けの雑誌に選ばれた。
 ボクらが所属しているのは大手事務所の地方校で、実際に仕事が入るのはほんの数人。通販雑誌やチラシにぼちぼち載るボクは、売れている方だ。入ってまもない日夜子が全国誌に出るというのは、かなりすごいことなんだけど。当の本人はけろっとして、カウンターのお菓子をぱくぱく食べている。モデルとしてはあるまじきことだ。「だってレッスンすると、おなかすくんだもん」といちごポッキーをくわえる日夜子は、そりゃもうかわいい。
 

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