神社をつっ切って行けば、ぼくらもお祭りに合流できる。アリバイ成立だ。
ぼくの役目は、ばあさんを二階まで連れていくこと。あと必要なのは、覚悟だけだ。
上妻 充希の月
「力まかせにやるんじゃないぞ。おまえ加減がへたなんだから」
僕の目の前ではしごに立った統の脚は、言葉とはうらはらに震えていた。高所恐怖症のせいかびびってるのか分からない。二階の開いた窓から、達彦のひそひそ声がふってくる。
「自然に落ちたようにみせかけるんだ」
「そろそろ、七時だよ」
地面の方から、玲央がささやいた。日夜子とおばさんは、予定通り夏祭りに出かけたらしい。おばあさんは花火を見るためにエレベーターで二階に上がるが、途中で車椅子の足がはずれ、階段から転落してしまうというシナリオだ。達彦が顔を上げ、目くばせをする。
「いいって言うまで、絶対目開けちゃダメだよ」
春太郎は、両手でおばあさんに目隠しをしていた。やけにはしゃいだ芝居がうまい。達彦が車椅子を階段の踊り場まで押しやるのを見届け、統が窓から二階の廊下に降り立った。後に僕と玲央がつづく。僕らの足音をかき消すように、達彦がふざけたくしゃみをした。
「なんだろね。二人して子どもみたいに…」
「だって子どもだもん、ぼくたち」
玄関の上にある大きな窓から、ひゅっと魂に似た黄色い光がのぼっていくのが見えた。ぼくらがせーので送り出すと、車椅子は急な階段をまっさかさまに転がり落ちた。魔女の悲鳴と、機関車のようなガタンゴトンという音は、圧倒的な花火の迫力にかき消された。
「ねえ、あれ、死んだかな?」
「わからん。けど、絶対入院」