「昔な、うちの隣にも家があったんだよ、そういう家が。家から見て西の方だ。今は神社の裏の林の一部になってしまってるだろう。」
そう言って父は左を向いて懐中電灯で闇の中に何重かの円を描いた。
「昔、隣の家の一人暮らしだった婆さんが死んでな、そのころ小さかった父さんは、あのホウホウ、っていう声を聞いたんだ。その婆さんのこと、結構好きでな。よく可愛がってもらってたんだ。それで、その婆さんの葬式が終わって家も壊されて瓦礫の山になって。それほど時間が経ってない頃だったと思う。夜中に目が覚めてふと窓の先を見ると、その隣家の瓦礫の上に婆さんの人影があった気がしたんだよな。だからどっかから帰ってきたんだと思った。それでみんなが寝静まっていた家を抜けだしたんだ。でも瓦礫の山に着いてみると人影は見間違いだったみたいで何もない。それで探し回っていると、ホウホウって声が色んな所から聞こえ始めてな。誰もいない真夜中で、一面に鳥の鳴き声だ。怖くなって、泣き出してしまったんだよ。」
「それで?」
「爺さんが俺の泣き声を聞いて、迎えに来てくれたな。」
「よかったね。」
「ああ。ぶん殴られたけどな。でもその時、死ぬってことが、何となくだけどわかった気がした。俺は泣いたら、誰かが迎えに来てくれる。でも死んだらな、誰も迎えに来ない。そういうことなんだ、って思ったよ。」
そう言って父は一息つき、視線と懐中電灯をこちらに戻した。
「さあ、少し話がずれたが、あの鳥はそういう鳥だ。身寄りのない人の家が壊されたらやってくる。」
「じゃあ、なんで家の庭に来たんだろう?」