小説

『ある医師の心得』田中りさこ(『こぶとりじいさん』)

 テレビのキャスターがそう言い終わると、頬にコブができた女性の顔がアップで映し出された。
看護師がチャンネルを変えると、芸人がこぶをネタにした漫才を披露していた。看護師はテレビ画面に目をやりながら、服を脱いでいき、部屋着を手に取った。
 いがぐり頭の芸人が大げさにため息をついた。
「はあ、こぶつきだと疑われるから、マスクもできへんわ」
 もう一方の、眼鏡をかけた芸人が早口でまくしたてた。
「何言うてんねん、こぶは、女性にしかできんもんやて、何べんも言うてるやろ」
「言うてなかったけど、ぼくにも、こぶがあんねん。生まれた時から」
 そう言っていがぐり頭の芸人が、ズボンのベルトに手を掛けると、もう一方の眼鏡の芸人が頭を叩いた。
「何脱ごうとしてんねん。そんなら、俺にもあるわ」
 今度は眼鏡の芸人がベルトを引き抜いて、一瞬のうちにズボンを脱いでしまった。
 パンツ一丁の眼鏡の芸人が後ろを向いた。パンツに詰め物でもしているのか、おしりの片方だけが膨れ上がっている。
 ジャンプをするたびに、コブに見立てた詰め物がぶるん、ぶるんと揺れた。
 いがぐり頭の芸人がすかさず頭突きをした。
「何してんねん。初のテレビがお蔵入りになるわ」
 テレビ画面から、どっと笑い声が起きた。
 看護師は、クスリともせず、テレビを消した。チューハイを冷蔵庫から出し、ベッドに胡坐をかくと、ノートパソコンを開いた。
 看護師がパソコンのメールを確認していると、広告欄に、こぶのできた女性の顔が徐々に浮き上がり、次に赤い文字が流れた。
 

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