「やっぱりその猫って、父が飼うてた猫なんですか?」
僕の質問に、彼女は笑顔を見せた。笑うと目じりがキュッと上がって、猫みたいな顔になる。
「そう。まさきは俺の息子や言うて、可愛がってはりました。あ、まさきってこの子の名前。もともとおうちで飼うてたんやけど、寺田さんが病気なってから『いつ倒れるか分からんし、倒れたとき家に閉じ込められたら可哀想やから』って、こんな風に外猫みたいにしてはるんです。緊急の時は、餌やりを頼むって言われてて」
「そうなんですか。すいません、父がご迷惑を」
「いえ、私も猫は大好きやし、まさきやったらうちで飼いたいくらいなんで。迷惑なんてとんでもないです」
猫がぐるぐると喉を鳴らし、彼女は赤ん坊をあやすように猫に話しかけた。
「でもこれから、まさきはどうしよう? そのうち寒くなるから、いつまでも外猫みたいにしてられへんし。うちの子になる?」
彼女の言葉は、おそらく僕への確認なのだろう。すぐには返事が出来なくて、僕は下を向いた。実家と、今僕が住んでいるところはずいぶん離れていたし、猫など飼ったこともない僕に、ちゃんと世話が出来るのか自信はなかった。そうはいっても、他人に親の飼っていた猫を押し付けるのは気が引ける。どうするのがいいのだろうか。