小説

『長靴に入った猫』卯月イツカ(『長靴をはいた猫』)

 隣の家のチャイムを押したのは、もう夕飯も済んだような時間だった。

「はーい」

 玄関に出てきた彼女は僕の顔を見て一瞬驚いたようだったが、すぐなんでもないような笑顔を作って見せた。

「少しは片付きました?」
「はい。まだ何度か来なあかんみたいですけど」
 鼻声で答えながら、僕は彼女に深々と頭を下げた。
「猫……、雅樹は必ず迎えに来ます。今すぐは厳しいんで、それまでご迷惑おかけしますけど、絶対迎えに来るんで」
「いいですよ。さっきも言ったように、預かるのは大歓迎です。でも、そうかぁ。うちの子にしそびれたなぁ」

 にゃーん、という声に、彼女は後ろを振り返った。奥から出てきた雅樹が、廊下で僕たちの様子を窺っている。雅樹、と僕が呼んでみると、しっぽをゆらゆらさせたが、こちらに来ようとはしなかった。

「猫って、ほんまに可愛いですよね。まさきに逢えなくなるのは寂しいナァ」
「良ければLINEで画像、送りますよ」

 勢いでそう口にしたが、彼女の表情を見、本日二度目の後悔をする。けして変な下心はなかったのだが、彼女に誤解をさせてしまったようだ。
 

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