小説

『傘売りの霊女』香城雅哉(『マッチ売りの少女』)

 東の空。太陽が山の端から顔を覗かせていた。辺りはまだ薄暗く、人影はない。露店は引き払われていたので、道端に傘を四本並べていた。この傘も実体化されているものか疑わしく、この世の人間には何も見えていないだろう。
 俯いたまま、傘を見つめながら、じっと座っていた。
「おい、姉ちゃん。何しとんじゃ?」
 薄汚れたスーツに身にまとった強面の男が立っていた。
「見えるんですか?私が?」
 私の言葉に男は一瞬、怪訝な表情を浮かべた。
「ワシは小さい頃から変なもんが見えてな。やっぱり姉ちゃんもその類か。まあ、こんな朝っぱらから、こんなとこに座っとるだけでおかしいがのう」
 私を分かる人に賭けるしかないと思った。答えを求めていこう。このままいつまで、居続けるのか分からない。生きていれば死ぬまで居れば良い。だが、死んでしまったら何処へ向かえば良いのか?この世に迷い続けて、永遠に傘売りをすることになれば、生きていた頃とは比べ物にならない苦痛を味わうのかもしれないのだから。
 私は己の短き人生を語った。
「傘みたいな人間ねえ」
 男は右手で顎をさすりながら、遠い目をした。
 

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