小説

『傘売りの霊女』香城雅哉(『マッチ売りの少女』)

 私は祖父が嫌いではなかった。傘を作っている時はいつも眉間に皺を寄せて、独り言が絶えず、せわしく手を動かし、近寄りがたかったが、普段は優しかった。
 傘も嫌いではなかった。完成した傘を太陽に向けてバッと開く瞬間が好きで、和紙から透き通る光が綺麗だ。傘も色味が鮮やかになり、花が咲いたように見えた。
 私は傘を売るのが嫌いだった。来る日も来る日も、店の前に立ち、時には「傘、いかがですか?」と通りすがりの人に声をかける。売れたときの喜びは多少なりともあったが、延々と同じ作業を繰り返すことが苦痛だった。
 祖父の遺した傘は全て売り切ってからやめよう。そう決意してから数日が経過した。あの日は暑かった。陽射しも強く、立っているのもやっとの状態だった。調子も悪かったのだろう。私は倒れた。それからの記憶はない。気づけば、また店の前に立っていた。家に戻ると居間には私の写真が飾られていた、仏壇と共に。覇気なく佇む両親に声をかけても反応がない。私が見えていないのだ。
 寂寥感はない。焦燥感もない。罪悪感もない。
 私はなぜここに居るのか?天国や地獄に導かれないのは、おそらく祖父の遺した言葉が脳内を徘徊し続けているからだと思う。その謎が私の身体を留めているのだ。
傘みたいな人間?
 その答えが出るまでは、傘を売り続けなければならないのかもしれない。
 

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