小説

『おばあちゃんのおせち』石川理麻(『鶴の恩返し』)

「お通夜とお葬式で疲れているだろうから、これ食べて。って言っているよ。きっと」
「この大量のお菓子だってそうだよ。いつもお菓子なんて食べないもん、おばあちゃん」
「あ、今回、急いでいたから唐沢さんたちにお土産買ってこなかった」
「このお菓子を渡して、ってことじゃない、きっと」
「皆が揃うの、わかっていたのかな」
「おばあちゃんらしい」
「どんだけ口ベタなんだか」
「だからね、東京に嫁いだあなたが命日を忘れないように誕生日に亡くなる、なんてことないのよ。そんな小さい人間じゃない」
「そうだよね」
「唐沢さんも、よかったらご一緒に」
「……あの、僕、唐沢じゃなく久保田なんですけど……(笑)」
「あ……おばあちゃんが唐沢、唐沢、って言ってたから(笑)」
「久保田さんも、ご一緒に」
「ありがとうございます」
「久々だね、こうやって年末に親戚で集まるなんて」
「おばあちゃん、このおせち、皆で食べたかっただろうなぁ」
 大晦日。皆で泣き笑いしながら、天国に向かいつつある祖母からのおせちを晩ご飯にした。

 

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