小説

『おばあちゃんのおせち』石川理麻(『鶴の恩返し』)

 12月31日。前日にお通夜をし、大晦日に告別式を行うという年の瀬。火葬場から帰ってきたら、紅白歌合戦が始まっていた。
「救急車に乗る時にピースだよ」
「勝負下着って!笑」
「わたしも、あんな風に死にたいわ」
「わたしだってそうだよ」
 あまりに慌ただしかった2日間。座ったら、誰も立ち上がれない。紅白を観ながら、なぜか祖父の仏壇の前に大量に置かれたお菓子をつまんでいると、唐沢夫婦がやって来た。
 「おばあちゃんにお世話になったので、皆さんに改めてご挨拶を、と思いまして……」と唐沢。「いえいえ、こちらこそ、いつも祖母がお世話になって、ありがとうございました」。「いつも、おばあちゃんから『東京の孫がね……』って聞いていたんですよ」「私たちも、唐沢似のイケメンに親切にしてもらっているって聞いていました」。そんな挨拶をしていたらチャイムが鳴った。出てみたら、そこには高級料亭の名前を名乗る人が立っていた。
 「なんの御用でしょう??」
 「ご注文のおせちを届けに参りました」
 「おせち?!」
 祖母は、自分が死ぬなんて思いもせず、豪華なおせちを注文していたのだ。
 もろもろ事情を説明しつつ、おせちを受け取ると、
 「中にお手紙を入れてほしいとご依頼がありまして」。
 「手紙?」
 よく見ると、3世帯分はあるであろう大量のおせち。開けてみると、叔母夫婦、唐沢夫婦にあてた手紙が入っていた。
 唐沢夫婦へは、「いつもありがとう。来年はどうかな、生きていられるかしら。生きていたら、また色々と面倒かけるけどよろしく」、叔母夫婦には「いつもありがとう。いつか東京の皆も呼んでお正月したいわね」と書いてあった。届いたらすぐに渡せるよう、手紙を入れてもらったようだ。
「なにこれ」
「今、集まっていますけど」
「これって、プレゼント?」
「おばあちゃん、自分でそう長くないって感じていたのかな」
「こちらがありがとう、なのにね」
「恩返し、かな」
「恩返し?」
「そ。口ベタだから。よくしゃべるのに、褒めたり、お礼を言ったりできないの」
「だからって……」
「それで、おせち」
「そう。おせち」
 

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