「私は結婚はまだまだだな。ワンマン社長の秘書をもう少し頑張らないと。破天荒で振り回されて大変だけどね」
「でも、偉いよね。辞めるとか仕事変わるとか、全然言わないし」
「だって、私じゃないと……。他の人じゃ無理だと思うのよ、あの社長の秘書はね」
秘書は気付いてなかったが、その時バリスタは彼女のしなやかさに尊敬さえ覚えていた。
突然、秘書が窓の外のママに気付き、手を振った。雪は雨に変わりつつあった。二十年ぶりに再会したママは、あの頃より一回りも二回りもふくよかに成長していた。高校時代の可憐な面影こそ消えていたが、屈託のない笑顔はそのままにママは現れた。そこには以前はなかった、四人の子供を育てる強さと自信と大地のような大らかさがあった。
そして、時間は一瞬にして高校時代へ戻った。端から見ると三人はそれぞれ違った空に羽ばたく、誇り高い鶴のようだった。