「あれじゃない? 大人の昔話ってあるでしょ。実は毎晩寝室で子作りに励んでたとか」
「それだと、昔話からかなりずれるの。だから、その方向の話だと、覗かないでと言って女性が身体を売る商売をしてたというほうがありえる」
秘書が得意顔で言った。バリスタはすぐに疑問をぶつける。
「それこそおかしくない? 吹けば飛ぶような密室よ。女性に好意を持っていた青年が気付かないはずないわ。それとも売春商売の胴元? 貧しい素朴な青年のイメージからから逸れるわよね」
「じゃあ、本当に気付かなかったとしたら。青年は薬で眠らされていたとか」
「薬ねぇ。昔の人は睡眠薬なんて持ってないと思うし、それに毎晩、爆睡してたら、昔話になんてならないんじゃない?」
バリスタはゲラゲラ笑った。そして、突然思いついた。
「耳が元々聞こえないとしたら、どうかな。耳の不自由な青年だった」
バリスタは「ね、わかっちゃった」と言って、紅茶を口に含んだ。
「いくら耳が不自由だったとしても、気配で絶対気付くと思うわ。そういう人って、すごく敏感だと思うの」
秘書は食い下がる。そして、言った。
「知ってる? 鶴ってね、フランスの俗語で売春婦を意味するんですって。だから鶴を女性の象徴にして身体を売ってた話は、日本にあってもおかしくないと思う」
秘書はこれが言いたかったに違いない。バリスタは頭をフル回転させ、更なる仮説を導き出そうとする。
「じゃあ、女性がそこまで出来るとしたら、どんな理由? 例えば、そうね、あっ、そうだ、わかった!」
バリスタの目が輝いた。