小説

『マンモスだったお母さんと魔法使いになりたかったお父さんと小学生のあたしの幸せな時間』山本プーリー(『花咲かじいさん』)

 うなるような声が聞こえたので、身がまえた。人間があたしをねらっているのか。道がくぼんで、雪がたまっている所。声はそこから聞こえてきた。弱々しいけど、「ブオーブオー」っていう鳴き声。声をあげているのはおじいさんマンモスだった。くぼみに体を横たえている。そばに寄ると、うれしそうな顔をした。
「やあ、仲間に会えた」
「おじいさんはひとりなんですか」
 あたしたちは何語でしゃべっていたのだろう。人間語かマンモス語か。でも、そんなことは関係なしに、気持ちは通じていたんだよ。
 おじいさんが答える。
「おまえさんのような若いのに会うのは久しぶりだ。どこからやってきたんだい?」
「ずっと向こうから。多分、東の方だと思うんだけど……」
 そんな言葉を交わしたんだけど、おじいさんは弱っていた。寿命が尽きる前の数時間、鼻で体をさすってあげた。おじいさんは最後にこう言っていた。
「仲間は次々に死んでしまった。わしたちの種族が残っているかどうかは何とも言えない。いるとすれば、おまえさんがやってきた方だろう。会うんだったら戻ること。でも、戻れば危ない目にあうかもしれない……」
 動かなくなってしまったおじいさんに雪をかけて体を隠した後、出発した。仲間に会うために。もしかしたら、あたしが最後のマンモスかもしれないっていう気持ちを抱きながら。それを頭から振り払うために、ノシノシノシノシ、大股で歩いて行ったんだよ。

*        *

 

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