小説

『マンモスだったお母さんと魔法使いになりたかったお父さんと小学生のあたしの幸せな時間』山本プーリー(『花咲かじいさん』)

 あたしにも灰がかかったらしい。粉の作用? 体が縮み始めた。牙も引っ込んでいく。鼻も短くなる。茶色の毛がすべすべの肌に変わっていく。そして、あたしは人間の姿に変身していた。でも、それは小学校五年生じゃなくて、もうちょっと年上の人の体みたいだった。高校生くらい。もう、頭の中はぐちゃぐちゃ。小学校五年生の女の子がマンモスに変わって、今度は高校生になっちゃうなんて。  
 あたしが鼻を巻きつけていたお父さんはいつのまにか地面に立っていた。そして、あたしの肩に手を置いて言ったんだよ。
「自転車に乗りなよ。うちまで送っていくよ」
 自転車? それを聞いて分かったの。さっき、砂に埋もれていた時に聞いたギーコ、ギーコっていう音は古い自転車をこぐ音だったんだ。お父さんは自転車で通りかかって、あたしを見つけてくれたんだね。
 細い体のお父さんはあたしが自転車にまたがると、ふらふらした。一生懸命ペダルを踏んで、坂道を上っていく。そして着いたの。なつかしいあたしの家に。
 お父さんはあたしを降ろすと、「じゃあね」って言った。じゃあねって、どういうこと? どこに行っちゃうの? せっかく、うちに帰ってきたっていうのに、自転車をこいで、またいなくなっちゃうなんて。ギーコ、ギーコっていう音だけが響いていた。

*        *

 

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