小説

『マンモスだったお母さんと魔法使いになりたかったお父さんと小学生のあたしの幸せな時間』山本プーリー(『花咲かじいさん』)

 何日も歩き続け、坂道が見える所までやってきた。マンモスには会わなかった。においもしなかった。坂道の下に立ったら、胸が締めつけられた。この上に自分のうちがある。こんな体をしているけれど、やっぱりお父さんとお母さんの娘なんだよ。危ない目にあっても、うちに戻らなければならないんだ。
 なるべく足音をたてないようにして歩いた。でも、人間たちが暮らしている所に出てしまった。白っぽいテントがマンモスの骨や牙、体の皮でできていることに気がついた。不思議と怖くはなかった。人間はマンモスと闘い、殺し、食糧にした。マンモスの体を使って、暮らしの道具を作った。おじいさんマンモスも人間に見つかれば、テントの材料にされてしまうのだろう。あたしもそうなっちゃうんだろうか……。あたしの鼻息が荒くなった。いや、そうはならない。あたしはお父さんとお母さんの子。絶対、ふたりに会うんだ!
 テントから人間たちが出てきた。ヤリをつかんで、向かってくる。あたしは鼻を振り上げ、足を踏み鳴らした。闘いは苦しかった。人間に追われ、丘の上に追い詰められた。後ろは崖。あっと思った時、転げ落ちた。雪がたまった所だから、けがはしなかったけど、体がずぶずぶ沈み込んでいく。鼻を突き上げ、息を吸い込もうとした。でも、それっきり、分からなくなってしまったんだよ。

*        *

 

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