しばらく歩いては草を食べ、川の水を飲んだ。うんこもいっぱい出た。また歩いて、暗くなった。人間はいない。このあたりは安全なんだろうか。
次の日も人間の姿は見かけなかった。そして、次の日も同じだった。
こうして、時間が進んでいった。何日くらいたったの? 何か月過ぎたんだろう。
お母さんのこともお父さんのことも夢の世界のよう。もしかしたら、あたしはもともとマンモスの子どもとして生まれていたのかも。人間だと思っていたのは、頭の中でこしらえた幻だったのかもしれない。親とはぐれて暮らす一匹の少女マンモス。こうして、だんだん大人になっていくんだろうか。
季節が移って、空から雪が落ちてくるようになった。積もった雪をかきわけて、食べ物を探した。体は厚い毛で覆われているから寒くはないけれど、鼻で雪をほじくって、植物をあさるのは楽じゃなかった。
ある日のこと。雪の中で目をつむって、じっとしていたんだよ。何か考え事をしていたんだと思う。「キャッ、キャッ」という声が聞こえたので、目を開けた。人間だ! 男の子と女の子。兄妹かもしれない。あたしの牙につかまって、体をゆすっている。まるで鉄棒遊びか何かのように。体を振って、雪の中にとびおりる。それを繰り返す。牙の鉄棒に飽きると、あたしの四本の足の間で鬼ごっこを始めた。雪をはねちらかして、笑いあっている。あたしもいっしょに遊びたいな。そう思って、体を動かそうとした時だった。大人の男の人の声がした。子どもたちははじかれたように、声のする方に走っていった。また、ヤリが飛んでくる! 必死で雪をかきわけて逃げた。口から白い息が噴き出す。息を切らして逃げ続けた。仲間に会いたい。マンモスの仲間に。そればかり考えていた。
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