ワンピースをすっかりタンスにしまい込んだ友莉は、卒業までの二年と半年をジーンズにTシャツ、トレーナーで過ごしたのだった。
「なんでもない。そういえばさ、今度の連休、ハワイ行くって言ってたっけ?」
「あ、そうそう、再来週だよ」
「いいなぁ。彼と?」
「まっさかー。同僚の女の子と。ショッピング目的だしね。あっ、お土産、ちゃんと買ってくるよ」
周囲のざわめきや美花の声がどんどん遠ざかり、友莉はその場にぽつんと取り残された気分になった。
そんな自分を現実に引き戻すために、友莉は声を大きくして言った。
「催促したわけじゃないよー」
「分かってるってー」
友莉と美花の笑い声が重なった。
翌朝も、ロッカーで菊田さんと二人きりになった。
友莉がいつ来ても、菊田さんは先に更衣室にいる。葉野さんたちの来る数分、菊田さんと友莉の二人きりになるのだが、会話はない。
友莉が聞いた。
「あの、平気なんですか?」
抽象的な質問に、菊田さんは、少し考えるように首を傾げた。
「何が?」
「あの、お昼一人で食べたりとか、更衣室での会話に入れなかったり…」
友莉の声は、だんだん小さくなった。菊田さんが言った。
「私は、私だから」
「え? なんですか? 少しは恰好とか周りに気を遣ったら、いいんじゃないですか? 一人で閉じこもんないで」
「…そうしたら、毎日が楽しい?」
その言葉は嫌味でなく、菊田さんの本心に思えた。
友莉は、言葉の代わりに息を荒くは吐き出すと、荷物を掴んで更衣室を出た。
更衣室のドアを叩きつけるように閉めた。苦し紛れの抵抗だった。