まだ一度も使ってない。
でも、今はバックより、カーディガンを手に入れることが先決だ。
「うん、いいよ。だから、貸して」
友莉はワンピースの上に、白いシフォンのカーディガンをはおり、鏡に向かって、ほほえんだ。
友莉は、髪をくしで何度も何度もとかした。
鏡越しに時計を見た友莉は、振り返ってもう一度時計を確認した。時計の針は、八時四十分を指していた。
遅刻ぎりぎりだ。
友莉は白いサンダルを履き、自転車を漕いで高校に向かった。しわにならないよう、立ちこぎすると、ワンピースの裾も風に舞った。
教室に飛び込んだのは、チャイムが鳴っている最中だった。チャイムが鳴り終わり、岸谷先生が教室のドアを開けて入ってきた。
眉間にしわを寄せ、口を一文字に結んでいる。歩き方もいつもよりゆっくりで、すり足だ。
教壇についても、なかなか口を開こうとしない。
友莉は、小さく息を吐いた。
先生が説教をする前は、いつもこんな感じなのだ。友莉の席は、最前列の中央、先生の目の前だ。
岸谷先生が低い声で話しだした。
「あー、最近、どうも派手な服装が目に余る。わが校は私服で、特に服装に関する校則があるわけではないが、学生の本分は勉学だ。華美な服装は、高校生に必要ない。…という訳で、心当たりがあるものは控えるように」
話が進むにつれ、友莉は、体を丸め、なるべく小さくした。
-どうして、今日に限って…。
新しいワンピースを着て、うきうきとしていた気持ちが急にしぼんでいった。
友莉に今できることは、この説教の時間が早く終わるように、と願うことだけだった。
友莉は下を向き、ワンピースのヒバリに目を落とした。と、そのヒバリが羽ばたきはしめ、ワンピースから飛び出した。
ヒバリは開いた窓から、真っ青な雲一つない空に飛んでいった。
友莉が思わず椅子から立ち上がると、ワンピースのヒバリたちが一匹残らず、羽ばたいて一斉に空に飛んでいってしまった。
「待って、待ってよー」
友莉は自分の声に、起こされた。