小説

『日向の蛙』枕千草(『カエルの王さま』)

「おー、ついにママ自らきたか。それで?」
「うん、言った。仲良く住んでますって」
 得意気に笑顔を作ってやると、郁人も少し笑った気がした。
「カエルの王さまのカエルはね」
 私は郁人にいつかの物語の続きを話す。
 お姫さまとの約束を諦めきれずしつこくお城まで追いかけてきたカエルに嫌気が差して、お姫さまはカエルを壁に叩きつける。すると、カエルにかけられていた魔法がとけて、元の王さまの姿に戻る。
「だからカエルの王さまなのか。しかし、ますますひどいお姫さまだな。それでどうなるの?」
「それでね」
 お姫さまと王さまは結婚して、幸せに暮らしましたとさ。
「なんだ、それ。そんなのでハッピーエンドなんて納得いかんぞ」
「だから言ったでしょ。ひどい話だって」
「でもさぁ」
「ねえ、郁人」
 私の呼びかけに、まだ納得のいってない様子の郁人が眉を寄せたまま振り向いた。頬に手を添えると、ふっと口元に笑みを浮かべる。私は郁人のこの表情が好きだ。
「カエルのままでごめんね」
「俺こそ、お姫さまじゃなくてごめん」
 明日も雨振り続けるらしいよ。郁人がそう言ったところでおじさんが歓声をあげた。ジャイアンツが勝っているらしい。

 

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