「おじいちゃん」
ホッとして彼女が言った。
「アコ、何してんだ。忍も一緒か」
アコのじいちゃんも僕らを見て驚いてるようだった。
「お前らこんなとこで何してんだ?」
「おじいちゃんこそ、何してるのよ。びっくりしたじゃない」
「俺は、あれだ。材料採りにきたんだ」
アコのじいちゃんは家具職人なので、ここの地主の許可を貰って、よく竹を採りに来ている。それは知っていたが、突然、しかもこのタイミングで現れるなんて、僕は何か計り知れないものの悪意を感じざるをえなかった。じいちゃんが担いでいる竹を見て、あれで殴られたら痛いだろうなあ、とおそろしい想像が頭をよぎる。
じいちゃんは訝しげに僕らを見ていたが、
「もう、おそいから、そろそろ家帰れよ」
と言って、二人の前を通り過ぎて歩いていった。だが途中で振り返り、
「忍、家の子に悪さするんじゃねえぞ」
と僕にぶっとい釘を刺した。
「しねーよ!」
僕は、若干の後ろめたさを感じながら叫んだ。でも、手繋ぐぐらいいいじゃないか?
彼女と顔を見合わせる。そしてまた笑う。
「絶好のタイミングってやつだ」
「うん」
「お言葉にしたがって帰ろうか?」
「そうね」
僕らは立ち上がり、じいちゃんの少し後を歩き始めた。手は繋いでいない。そして、並んで歩く二人の間は、ちょっと離れている。
でもいいんだ。ニューヨークだろうが、月だろうが、距離なんてもうこわくない。その気になれば、どこへだって行けるような気がしていた。
また、じいちゃんが振り返って僕らを見ている。何だかじいちゃんは微笑んでいるように見えた。