まだだ。まだこの距離は取り返せる。僕は彼女を見つめた。転校してきた日からの思いが湧きあがってきて、僕は笑顔になった。
「喉渇いた」
叫んだためにガラガラ声になった僕は言った。
「ジュース飲まない?おごるよ」
呆気にとられてる彼女を尻目に、僕は近くにあった自販機に歩み寄り、財布を出した。
「何飲む?」
と彼女に聞く。
「え?じゃあお茶」
僕はお茶とスポーツドリンクを買った。すぐそばの小さな祠の石階段に向かい、座る。彼女が近づいてきたのでお茶を渡し、座るように促した。まるで男前がやるような行動だが、今の僕にこわいものはなかった。
彼女は僕の横に座り、
「ありがとう」
といって、ペットボトルのふたを開けてお茶を一口飲んだ。僕もそれに倣う。冷たい液体が喉を伝い、おまけにちょっとだけ、口からあふれてワイシャツにこぼした。だけど、さっきよりは冷静になれた気がした。袖で口をぬぐう。
さて、座ったはいいが、どうしよう。気持ちは決まったが、どう切り出していいのかさっぱり分からない。祠の横の竹林がまたサーッとなる。階段はちょうど日差しを遮る陰の下にあり、幾分暑さからはのがれられた。
「アメリカか……」
と僕は取り合えず言葉を発する。とにかく会話だ。会話を続けろ。
「すごく遠いね」
間抜けな感想だが、この際仕方ない。
「うん」
と、彼女が答える。
「具体的にどれくらい距離あるの?」
「確か一万キロちょっと」
「そうか……」
無言。竹林の笹の音と、気の早い蝉の鳴き声。
「俺、寂しいよ」
結局、何のひねりもなく、ストレートに今の気持ちが言葉になった。言ってしまったというドキドキと、言ってやったぜという高揚感。核心には触れてないのが情けないが。