小説

『おバカの王様』美土すみれ(『はだかの王様』)

「いや、見えないわ」
「はい?」
「予想はしていたけどね、やっぱ見えないや」
 大臣も役人も、言葉を発することが出来ませんでした。
 長い長い沈黙の後、王様は言いました。
「今さ、自分は王様にふさわしくないのかな、やっぱりそうなのかなって考えてたんだよね。あんま大した仕事してないし。でもそういわれても困っちゃうよね。うちの国って世襲制じゃん? 王様になる以外の選択肢ないわけよ。一人っ子だし。そう考えたら、自分が布を見ることが出来ないのは、やっぱ、バカだからなのかなあ、とかね」
「そんな、王様……」大臣たちはそれ以上言葉を続けることが出来ませんでした。いくら王様だといったって、新しい服を着ることばかりに夢中になっているお方でしたから、バカ認定されても仕方ありません。でも、王様に向かって「そうですね」とも言えず、黙っているしかありませんでした。
「あのう……」沈黙を破ったのは、詐欺師たちでした。
「で、いかがでしょう、この布は」予想外の反応に困ってしまった詐欺師たちは、恐る恐る聞いてみました。
「うん、素晴らしい布だと思うよ」
「そうですか! ではすぐに服に仕立てましょう!」
 今の今まで見えないと言っていたのに、一体どういうことなのかと詐欺師たちは思いましたが、もともと見えるはずもなく、それ以上つっこんでも墓穴を掘るだけだと判断し、早いところ服をしたてるふりをして、とんずらしようとたくらみました。

 それから数日後、とうとう王様の服が仕上がりました。詐欺師たちはあたかも手の中に服があるように、両手をあげてひとつひとつ見せびらかしました。
「まずズボンです!」
「そして上着に!」
「最後にマントです!」
 詐欺師たちは言葉をまくしたてました。
「これらの服はクモの糸と同じくらい軽く出来上がっております。何も身に着けていないように感じる方もおられるでしょうが、それがこの服が特別で、価値があるといういわれなのです」
「ふうん」と、王様は言いました。
 

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