「いや、そんなはずはない。もしかすると、今の仕事が合ってないんじゃないの?」
「そ、そうでしょうか」
「そうそう、きっとそう。ちょっと人事と相談してみるわ。やっぱ、適材適所じゃないとね」王様は「いいこと言った!」と満足そうです。
「は、はい。拝承いたしました」大臣は、びっくりしながらそう言いました。なぜならば、王様が人事に介入したことなんて、今まで一度もなかったからです。
それから間もなく、王様は布の出来具合が気になったので、今度は頭がいい上に仕事の評判も良い役人を詐欺師のところに向かわせました。しかし、役人も大臣と同じように、見えたのはからっぽのはた織り機だけでした。
「王様、私はバカではないと思っていたのですが……。それとも、自分にふさわしくない仕事をしていると判断されたのでしょうか」役人はがっかりして言いました。
「今まで、仕事一筋で生きてまいりました。この仕事に誇りを持っておりますし、天職だと思って、それこそ、わき目もふらずにやってきたつもりです。今さら、ふさわしくないといわれましても……」役人は、どうにも腑に落ちません。
「そうか……。わかった!」王様はパッとひらめきました。
「お前はね、仕事バカなんだよ」
「仕事バカ、ですか?」
「そう、バカはバカでも仕事バカ。そういえば、お前、最近子どもが生まれたんだよね?」
「はい。そうですが……」
「オムツ替えたことある? えっ、ないの? ダメだよそれじゃあ、産後クライシスだよ。やばいよ、奥さん、出て行っちゃうよ」
「しかし、仕事が忙しくて休みもありませんし……」
「育休とればいいじゃん。えっ、うちの国って育休ないの? それ、まずいんじゃない? さっそく法律作んないと。やっぱイクメンだよ、イクメン!」王様は、なぜか張り切っています。